一般質問解説①「公文書消失事件」(論点解説)

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前回の「質問の背景と事件の経緯」に続いて、一般質問の解説をいたします。
一般質問は、取り上げる行政課題の周辺知識がないと、分かりにくい事柄もあります。とはいえ、一般質問では制限時間が60分間しかありませんので、議場ではいきなり本題から入るようにしています。
そうしたことから、本ブログに記載させて頂く解説と合わせて見て頂ければ幸甚です。

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【質問の論点】

1.市長による情報統制が市役所内でなされていたのか?


 まず知って頂きたいのは、茂呂副市長(当時)が取りまとめた「部局長意見集」は部局を超えて共有すべき大変有意義な情報だったことです。
 例えば意見集の一番最初の方にある「庁舎整備」の問題については、政策調整部案件として、大津市旧志賀町合併特例債を使って市役所本庁舎整備を進める必要性が記載されていますが、同時に企業局と消防局にまたがる案件であり、それぞれの立場で意見が述べられており、副市長が取りまとめた意見として共有されるべきものだったと思われます。もし当時から十分に市役所内で連絡調整・連携がなされていれば、現在のような遅れに遅れた本庁舎整備検討ではなかったのではないでしょうか。
 また、高齢者介護施策やケアセンターの課題についても的確な意見が出されており、部門を超えて情報を共有すべきものだったと思われるし、附属機関の活用の在り方や、行政改革の在り方、関係機関・団体との関係の在り方なども特定の部局だけの意見として市長に提言するだけではなく、部局を超えて共有すべき優れたナレッジと評価できます。

 こうした共有すべきナレッジ(部局長意見集)を、なぜか市長と伊藤副市長は二役だけのものにしたかったようです。伊藤康行副市長答弁では次のように述べています。
 「主要事業ヒアリング等を担当部においてそれぞれ準備を進めていたところ、担当部長と二役が協議をして、担当部長が責任を持って事業を進めるという方針に合わない」。
越市長は次のように述べています。
 「担当部が責任を持って進めるという方針と合わないため」、「私や伊藤副市長に相談や連絡がなく、一方的に部局長に対して意見照会を行われたということで、部局長からもそのことに対して疑念やまた不安の声が私にも寄せられました。従って、そのような部局長の声を聞いて、やはりこれは二役限りの文書とするべきだと考えた。」

 しかしながら、前回記事で紹介したとおり、主要事業ヒアリングに先立つ部局への事前ヒアリングは伊藤副市長が提起された事柄であり、照会文で照会するかどうかという些細な合意があったかなかったかというよりも、部局への事前ヒアリングを行うという点では合意があったことから、市長が述べた答弁は間違いです。少なくとも相談や連絡は伊藤副市長にあり、単に伊藤副市長が市長に報告をしていなかっただけの問題です。

 何よりも、茂呂副市長(当時)が行った、部局を越えて情報共有したことによって得られたはずのプラス効用に比べ、市長や伊藤副市長が述べる「担当部局長が責任を持って進める」という考えは大変視野が狭く、情報を共有しなかったという不作為によるマイナス効用の恐れが十分にあります。
 市民サービス向上の観点からどちらの方がよいかと言えば、10人いれば8、9人は茂呂副市長(当時)の方が正しいと言うでしょう。また、情報が共有されることによって、市長や伊藤副市長が述べるように「部長が責任を持って事業を進める」ことができなくなる合理的な理由は見つけることができません。

 結局のところ何故、メールが削除されたのかと言えば、越市長にしては「トップである自分の言うことを副市長がきかないことが面白くなかったから」としか考えられません。
(実はもっと具体的な事柄を知ることができましたがここには敢えて書かないようにします)

 さて情報統制がなされていたかどうかという点については、言うまでもありません。
 市長は都合の悪いメールを削除しました。部局長に送信された大変価値あるメールを残しても、何も不利益はないにも関わらず。

 こうした出来事は既視感があります。
 かつて総務省から大津市に出向して2012年に政策統括監及び副市長となった笠松氏は、その前は滋賀県の商工観光労働部長などを歴任していたが、その際に新聞社に対して言論統制・圧力をかけた疑いがあることが、今も滋賀報知新聞のウェブサイト記事に残っています。

 市役所内部やマスコミに対して情報統制を行うことは到底許されることではありません。


2.市長・副市長の行為は違法性があったのか?


 まずは条文をご紹介します。

 (公用文書等毀棄) 
  刑法 第258条
 公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

 この罪は公訴時効が5年間で、非親告罪(誰でも公訴できる)となっています。
 この「公務所の用に供する文書又は電磁的記録」(公用文書)は、公文書、私文書を問わず、公務所内にあるかどうかも問いません。たとえ未完成でも、公務所が使用する目的で保管しているもの全てが該当します。
 茂呂副市長(当時)が取りまとめた「部局長意見集」は添付ファイルであったとしても、その作成経緯からして確実に公用文書となるでしょう。
 更に細かく言えば、茂呂氏から送信された「メール本文」と、「添付されていた部局長意見集」との二つに分けられるはずです。そのうちの「メール本文」には一体どのような事柄が書かれていたのでしょう?「公務所が使用する目的」が記載されていたのであれば、メール本文も「公用文書」となります。

 さておき、前回記事で記載しました通り、副市長が目的をもって共有を図ろうとした電磁的記録としての公用文書が削除されたことは、外形的に違法性を帯びた行為だったと言わざるを得ません。最終的な判断は裁判所が行うものとなりますが、とある弁護士に確認してみたところ、当該公用文書が毀棄されたことによって大津市及び大津市民が被った不利益が大きいのであれば、十分に公用文書等毀棄罪の成立要件を満たすのではないかという意見を伺いました。
 越市長が有す弁護士資格は、こうした問題をすり抜けようとするためのものではないはずです。弁護士法の第1条には「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」とあります。


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今回の答弁で感じたことは、「重苦しい市役所内部の空気感」です。

外交的で開放的な雰囲気とはほど遠く、職場の上司は常に市長の顔色をうかがい、若手中堅職員は現場の声を市長にあげてくれない上司の下で作り笑顔で仕事をしています。中には市長の評価高くモチベーション高い課長クラスもいるでしょう。しかしごく一部です。大半の職員は諦め感を抱いているようです。
こうした責任はなにも市長だけのものではありません。私自身はその半分は議会にあると思っています。これまで越市長に政治姿勢を省みる決議などを決議してきましたが、残念ながらいずれも否決されてきました。(2013年11月に「市長を主体とした職員の綱紀粛正と服務規律の確保を求める決議」は議決された)


また、伊藤副市長は人柄がいいのは言うまでもありませんが、市政運営にあたって、笠松氏、茂呂氏が副市長を退任後、今日まで一人で素人市長を黒子として支えていた認識を持っていました。しかし、あらためて今回の質問を準備する過程で認識を改めつつあります。茂呂氏が担っていた市長と職員とのパイプ役を果たせているかと言えば甚だ疑問であり、国土交通省とのパイプを生かして何か具体的な成果を残せているのかと言えばこれも思い浮かぶものはありません。私が知る限り、茂呂副市長(当時)が尽力された ごみ行政についても、越市長はそれなりに動いていることを具体的に聞きますが、伊藤副市長はあまり聞きません。

ある人が言っていました。「人柄と、能力は、別だ」と。

市民生活の向上(将来生まれてくる市民も含めて)や、そのための市役所の円滑なマネジメントにおいて、多大な責任が副市長というポジションには求められます。「組織の盛衰はナンバー2によって決まる」という格言も経営者の中ではよく知られています。
茂呂氏も、越市長の下では自分が職責を果たす自信がなくなったことを理由の一つに退任されましたが、伊藤副市長は果たしてどうでしょうか。


今回の「公文書消失事件」で取り上げたかった課題認識は、単に違法性を問うものではなく、こうした組織マネジメントの在り方を問うものでした。


大津市議会議員 藤井哲也拝






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